ニセモノの味

ふと見やった自動販売機で、紙パックのジュースが並んでいた。バナナ・オレとイチゴ・オレが目に入った。

この手の飲み物はもうずいぶん長いこと飲んでいない。ふと遠いむかしを思い出した。十九の私はこの飲み物が、とても好きだった。

六畳の部屋が一つと小さなキッチンのついた木造アパートに、彼女と住んでいた。

ユニットバスの狭いシャワールーム、霜のひどい直冷式の冷蔵庫、マットを敷いただけのベッド、ベランダのゴミ袋。

狭いテーブルの上に小さな灰皿が一つ。彼女のマルボロと私のピアニシモがいつも溢れ、周囲にまで灰を落としてた。

メロンパンが好きで、そればかり食べてた。チョコチップの入ったメロンパンで、チョコとまわりのカリカリのところばかり食べて、彼女にいつも怒られた。

時々、時間は連続性をもたないのではないかと実感する。連続した時間を辿って私は私とめぐり逢いたいと思うけれど、それはいくら手を伸ばしても叶いそうにない。

お腹が弱くて、飲むとすぐにお腹を下すのに、まるで学習することもなくバナナ・オレやイチゴ・オレを飲んだ。あの作られた味が好きだった。まったくバナナでもイチゴでもない、あのニセモノの味が、好きだった。

昔の自分というものは、思い返してもどうにも今の自分と結びつかない。過去の自分があるから今の私がある、なんて気味の悪いことを言うひともあるけれど、今の私はなんだか突然変異でも起こして存在しているような気さえする。

今の私が、過去の私があるがゆえに在ったとしても、あのときの私があるがゆえ、今の私があるわけではないと思う。葬り去りたい過去なわけではない。ただとても遠くにきたのだという気持ちは、いつもある。

そういえばメロンパンだってあれはメロンとはまるで関係がなかった。たしかあの頃、食べながらもそんな話をした気がする。メロン入りメロンパンだなんてフザけたものを見かけて、メロンパンは本物のメロンを求めていないのだと話した。なにせ私は、ニセモノの味を愛していた。ニセモノの味を、愛していた。

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